【前編】技能実習と特定技能は今後どうなる!? 海外人財業界のオピニオンリーダー鈴木とSMILEVISA代表の川村2名が業界の未来を大胆予測



2022年6月の時点で、日本で受け入れている技能実習生の数は約32万人、そして同年8月の時点で特定技能外国人の数は10万人を超えました。日本における外国人労働者数は年々増え続けており、日本政府は今後ますます深刻化する人手不足に対応するため、より多くの特定技能外国人受け入れを表明しています。

しかし、大手メディアや米政府などが技能実習制度の一部の劣悪な労働条件や待遇などについて指摘をあげていることも事実です。

――――今回の対談では、技能実習と特定技能の現状、そして問題提起から、今後の業界動向まで、外国人雇用支援の専門家2名の議論を深堀りしていきます。受入れ企業や職業紹介事業者、登録支援機関、外国人雇用支援に関わる私たちにとって、今後どのような影響が出るのでしょうか?そして、今後の特定技能業界はどのように変化していくのでしょうか?

今回、特定技能業界で豊富な知識と長年の支援経験をもつお二人の意見を対談形式にてまとめました。


一般社団法人ワールドフォレスト代表理事
鈴木 淳司のプロフィール

日本大学理工学部建築学科を卒業後、アパグループの開発部門に入社、配属研修等でも同期No.1で昇格し、グループ初の「プロフェッショナルオブザイヤー」を受賞、28歳で退職し、外国人技能実習生受入れ事業に着手、30代全ての時間をアジアの青壮年労働者と日本企業への橋渡しに全力を注ぐ、2017年8月、東京の監理団体の専務理事まで務めるも、業界の将来を再構築するため自ら辞任し、同組織の顧問に就任、2019年10月、株式会社グローバルEサポートを設立、その傍ら2022年11月に一般社団法人ワールドフォレストの代表理事に就任、2021年7月にはJLEF財団の理事の就任を果たし、世界から日本へ・日本から世界へ、海外人財の総合商社、アジアの太陽になるの3大御旗を掲げ、アジア全体の労働グローバルスタンダードに向けて事業運営者、情報発信者、教育者の役割を果たしている、中国、韓国、台湾、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、カンボジア、ネパール、ラオスとアジア全域に人的ネットワークを所有している。


株式会社CROSLAN代表
川村 敦のプロフィール

神戸大学国際文化学部を卒業。在学中に、ベトナムのホーチミン市国家人文社会科学大学に交換留学した際に技能実習生と出会い、日本の外国人労働問題の現実に触れる。大学を卒業後、大阪のIT企業にてシステム開発とDBの運用管理に従事した後、2017年に株式会社CROSLANを設立し、2022年4月より特定技能外国人管理システムSMILEVISA事業を開始。


まず初めに、簡単に技能実習制度と特定技能制度の違いや現状について聞かせてください。

鈴木:まず初めにですが、技能実習生制度と特定技能制度では根本的な制度の趣旨が違いますね。特定技能制度は人手不足に対応するため、人手不足が顕著な産業上の分野において、一定の専門的な技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れする目的で2019年4月に施行されました。

一方で、技能実習制度は人材育成等を通じた開発途上地域等への技能、技術、知識の移転による「人づくり」を通じて「国際協力」をすることが目的で、1993年に施行され、来年制度創設30年を迎えます。この2つの制度は「似て非なるもの」というのが重要な違いです。

現状は2021年12月末で、コロナがありながら27万6千人、監理団体は約3千5百団体、技能実習を受け入れている企業が約6万3千社。特定技能外国人は2022年10月末の速報値で10万1千3百86人。この大半(8割程度)が技能実習制度からの移行となっています。

外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(PDF)

とはいえ実情は、コロナ禍で母国に帰国ができなかった技能実習生が特定技能に変更したことが、この8割を占めるに至ったと予想します。コロナ禍の水際対策で一部入国できた時期はありますが、2年間停滞していた入国が一気に再開して3月から8月の間に入国できた技能実習生が約12万人、特定技能外国人が1万2千人となり、技能実習生の大幅減少がまた一気に解消されました。

川村:そうですね、特定技能制度は現在10万人を超えてきたということで、ある意味、特定技能の定着はしてきたと思いますがどう思いますか?

鈴木:技能実習生がこのコロナのパンデミックの影響で結果的に特定技能外国人に移行した、というのは誰も予想できなかったと思いますね。2年前の2万人から10万人まで500%も増加してますからね。たまたまかもしれませんが、それによって特定技能が広く認知されるようになり、特定技能が大きく成長したと言えますよね。

なぜ今になり、技能実習の見直しが叫ばれているのでしょうか?

鈴木:これについては、特定技能制度の創設が大きな要因であると断言します。そもそも特定技能創設の議論がスタートされたのは2016年9月23日の日本経済新聞の全国紙の一面に遡ります。

その時は、特定技能という文言はなかったのですが、当時の見出しは「日本、深刻な人手不足に対応するため外国人労働者に門戸を開くー新たな在留資格創設へー」でした。

その紙面の中には、中見出しで「技能実習制度の代替制度創設」というのが書かれていたんです。しかも、アメリカで毎年公表される人権白書にて「日本が先進国として技能実習制度で人権侵害を起こしている」と指摘されていました。ところで、アメリカによるこの人権侵害の指摘はいつから始まっていると思いますか?

川村:技能実習の人権侵害議論の始まりについては、安倍政権の誕生以降だったと思います。私が大学生の時の留学時や卒論の調査の時点で、すでに、国内外で技能実習の人権侵害について指摘がありました。少なくとも、2010年からだと思います。

鈴木:そうなんですよね、2010年以降、アメリカの人権白書で、技能実習制度が人権侵害を起こしていると、毎年ずっと公表されています。日本政府としてはアメリカと同盟関係にある中でこの公表は非常にセンシティブなものだと思います。

この事態を打開するために特定技能の検討が始まったと思っています。その検討過程で、2017年に技能実習保護法が施行され、法律的に技能実習生の保護を図りました。その後2018年のアメリカの公表で一度は問題なしとされたものの、その1年後にはまたグレードダウンされましたね。

川村:一度は問題なしとされたのに、再度NGとなってしまったのは日本政府としてもショックであったと思いますね。

鈴木:そうなんですよね。このような状況で、特定技能制度創設をして技能実習問題の抜本的解決を図ろうとしたのは事実でしょう。そこに2020年からコロナウイルスが世界中で広まり、日本でも外国人が一切入国出来なくなりました。

その状況下で2020年のアメリカの人権白書の公表は、過去に例のない多くのマスメディアで報道が実施されました。マスメディアによって技能実習に対して疑問を投げかける記事を公表し、技能実習制度廃止誘導を図ろうとしたと思われます。

今後技能実習制度が縮小し、特定技能制度への転換が始まる可能性はどのくらいあると思いますか?

川村:可能性としては、現在の技能実習を縮小させ、徐々に特定技能へシフトする、という風に変わっていくことは大いに考えられます。ただ、技能実習でも利権など含めて、様々な関係者が携わっているので、これらの方々との調整が続いていくのではないかと思います。おそらく、今後はお互いの良いところを取り入れた折衷案や、技能実習と特定技能をうまく組み合わせた運営が示されていくかと思います。

鈴木:そうですね、現在、特定技能制度と技能実習制度が並行して運用されていることは明白な事実ですが、現在は川村社長が言われたとおり「技能実習制度は維持する」という話が各種方面から私にも聞こえているのが現状です。

TwitterなどのSNSの世界では、技能実習制度への廃止論は根強く残っています。ここでは肯定派の意見はほとんど聞くことはできません。まあ、あるいは肯定していても表明していないだけかもしれませんが…。大学生などが技能実習制度廃止のデモを起こしているというのも今年の非常に重要なニュースでしたね。

川村:そうですよね。ネットユーザーの意見は、おおむねメディアの主張に沿ったものが多いですね。
ちなみに、鈴木さんは特定技能の内製化を推進をされていらっしゃるので、技能実習についてはどのようなスタンスなのかは個人的に気になっています(笑)

鈴木:はい、確かに特定技能の内製化による受入れは推進しています!(笑)その中で、技能実習制度の問題についての話も多くの場面でしてきましたが、実は個人としては技能実習制度に否定派ではないんですよ。どちらかというと維持派の考え方です。

技能実習も特定技能も、日本政府が定めた本来の制度の運用がきちんとされるべきというのが当たり前のことなのですが私の考えです。私は、技能実習制度を活用すべき業界というのが一定業界存在すると考えています。例えば個人的な考えにはなりますが、介護や建設は技能実習制度との相性が良いですね。

というのも、この業界は人材・技術育成に時間がかかること、そして外国人と企業との相性の見極めや定着に時間がかかります。こういった業界は技能実習が必要だと感じています。一方で、食料品製造や農業はその作業内容から分析しても、技能実習制度ではなく特定技能制度を活用するべきだと考えています。

また今後は、おそらく技能実習制度を維持することになっても、その受け入れのハードルは非常に高くなっていくのではないかと思いますね。特定技能制度は、個人的には、日本政府が掲げた2024年までの35万人には是非到達してほしいなという願望があります。なぜならこの特定技能という在留資格が、日本の生産労働現場の人手不足の中で、一丁目一番地の在留資格であるべきと思っており、期待感を持っているからです。

川村:面白い見解ですね、私もその点については、同じようになっていくと思いました。法律の改正のたびに、技能実習生の受け入れのハードルが上がってきています。労働法と技能実習法と比較して、技能実習法のほうが厳しい受け入れルールが求められる場合もありますね。特定技能という制度が労働不足の解消であるために、技能実習制度の本来の目的にそった運営が求められるようにさらに厳しくなっていくのではと思います。

鈴木:そうなんですよね。技能実習制度の抜本的見直しにおいて、制度の根幹である「目的」を変更できるかどうかが重要なポイントだと思っています。これまで通り、技能実習制度に「国際協力」、「技能移転」というものを設定するのであれば、廃止論が浮上してもおかしくないと思いますが、例えば技能実習制度の「目的」を、特定技能制度の手前、つまり産業人材を育成するため、という目的に変更した場合では、かなり維持論が継承されると思いますね。

これからの日本の労働者不足を補填するために、外国人の人材育成として、技能実習制度を前段階として取り扱っていくのか、もしくは技能実習を介さずに直接労働者として特定技能を受け入れた方が良いのかは議論が分かれるところではないかなと考えています。

技能実習生の問題が叫ばれる一方、特定技能については問題が起こっていないのですか?

鈴木:2019年に施行された特定技能制度が、今年の8月でようやく10万人に達しましたが、コロナ禍で技能実習から帰国困難で特定技能に移行した外国人が多い中、まだまだ特定技能の問題については表面化していないと思っています。

技能実習制度の問題をマスコミ等が過大に問題を取り扱っているような気もしますが、もちろん問題が起こっていることは事実ですし、否定はできません。しかし、他の多くのデータから見ると少し誇張しすぎているのではと感じることもあります。

 例えばですが、技能実習を受け入れている企業の7割に法令違反が見られるという報道を皆さま見たことがあると思います。しかしあれは、技能実習生に直接起きている問題だと思っている方が多いと思うのですが、実は日本人に対しても法令違反があったということが含まれている数字だったりします。

また、日本人のみを採用している事業所でも、ほぼ同じ程度の割合で法令違反がおきているというデータも実はあります。そのくらい日本の労働基準法や安全衛生法は複雑膨大であり積み上げ方式なので、すべての事業所で100%遵守というのはなかなか難しい部分もあるのではないかと思っております。

誤解を恐れずに言えば、私は技能実習生ほど、日本で法的に、かつ仕組み的に保護されている労働者はいないと思っています。技能実習制度の重厚なシステムのおかげでもあるし、監理団体約3千5百の絶え間ない日々の監理努力の結果だと思っています。

令和3年度技能実習制度に関する調査の結果が公表されましたが、帰国後の技能実習制度の89%が技能実習は役に立ったと回答していることや、技能実習法違反があった企業の割合は32%、監理団体は41%という先程のメディアの報道とは別の観点の統計数値も存在しており、その辺はなかなか報道されないことに不満を抱いております。

川村:そうなんですよね。技能実習の役に立つ、立たないという帰国後の回答に関しては、2013年に私が卒業論文で書いた内容でも同様の結果が出ていました。元技能実習生34名にインタビューをとったのですが、7割の方が「帰国後のキャリア形成に役立った」というポジティブな回答をしていました。

メディアが描きたい技能実習生の像と、実際の技能実習生の実態に多少なりとも乖離はあると思います。実際に多くの企業様と接する中でお話を伺う機会も多いのですが、会社にとっても人材にとっても技能実習制度の採用がお互いの役に立っているというのも、今まで制度が維持されている理由であると考えています。

鈴木:そうですね、特定技能においてはより正確に問題を把握するためにも、今後細かく統計されていく必要があると思います。

これから特定技能外国人の問題は起こることが予測されますが、それは外国人だから、という枠組みではなく、日本人も含めた労働市場で起きていることであり、労働基準監督署などの行政でしっかり解決されるべきだと思っています。

最も重要だと思うのが、外国人の保護ばかりに注力するのではなく、日本人も同様に保護されなければならないと強く訴えたいですね。

日本の労働市場におけるコンプライアンス意識は他国に比べて低いと思っています。外国人が増加することで、日本の労働市場における問題が浮き彫りになっておりますが、それを起点として日本全体の労働問題が解決されるように向かうべきだと思っています。

特定技能に対する問題は、日本人に対する問題でもあるということでしょうか

鈴木:まさにそうです。技能実習制度と比較して特定技能制度はどうかというご質問でしたが、皆さまは一見、外国人だけに起きている問題だと思っている人が多いと思うのですが、これは日本人も含めた日本全体の労働市場における問題を表していると思っています。前向きに、今後外国人労働者を含めて、日本人にも平等に適用されることを望んでいます。

川村:確かにこれは外国人だけの問題ではなく、日本人に対しての問題としても捉えていく必要はありそうですね。労働に関する法令については、技能実習と特定技能ともに、外国人の受け入れをしていない企業と比べ、むしろ採用している企業のほうが法令意識は高まっていると思います。

例えば特定技能を受け入れる際に、適切に受け入れを行っているかどうかを出入国在留管理庁に報告する定期報告というものがありますが、受け入れ企業と行政との対話を通じて意識が高まっていると感じます。

ただ個人的に思う特定技能の問題点としては、特定技能は外部に委託できる一方で、条件を満たせば自社で受け入れができます。しかし、社で受け入れをしている企業があまり受け入れ体制を整えないままで進めている企業が近年少なからず見受けられますね。

例えば、実際の例を挙げると本来であれば外国人対する相談体制を設けることが必要ですが、相談体制を設けないまま受け入れを初めて何かトラブルが起こった際に相談する場所がなく、外国人が困っているケースもあります。

そもそも最低3か月に1回は必ず行うことと義務付けられている定期面談についても、実態として行っていないという例もあったりします。

自社支援の責任者、担当者が特定技能外国人への支援の重要性を理解していないまま進めていたり、担当者がやめた場合にノウハウがない人にいきなり任せてしまったり…。自社支援の場合に、法に遵守した受け入れができていないというのが多くなってきているなという印象です。

鈴木:川村社長のおっしゃるとおり、そういった例は特定技能外国人が増えるにつれ問題になってくるだろうなと感じています。

特定技能の自社支援を都合の良い解釈で利用すると問題が起こりますね。技能実習制度でも同じですが、このあたりの閉鎖感、隠蔽感を脱却させることが適正な受け入れにつながっていくと思います。

       

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